相続不動産は3年以内に売るが勝ち?相続税の取得費加算の特例とは。

投稿日
2019年09月21日
更新日
2019年09月21日
estate-valuation

取得費加算の特例は3年以内

「相続税の納税資金のために相続した土地を売ったんだけど、土地を売ったらさらに所得税も取られるの?」
「取得費加算の特例って売った不動産の部分だけしか利用できないの?」

こんにちは、相続税を専門に取り扱っている税理士法人ファンウォール、税理士の山中です。

相続が発生し親等から土地や家屋といった不動産を相続したものの、納税資金が無かったりいらない不動産だったりして不動産を売却するケースがあります。

不動産を売却すると譲渡益に対して所得税と住民税が課税されるのですが、「相続税を払ってさらに所得税等も払うの?」って思いますよね・・・。

そこで役に立つのが相続税の取得費加算の特例です。

うまく使えば、相続した不動産を売却した際の所得税や住民税を節約することができますよ。

ここでは、相続税の取得費加算の特例がどういうものなのか、適用の条件や適用時の注意点などについて、相続税専門の税理士である私が分かりやすく解説していこうと思います。

ポイントは以下の通り。

  • 特例を使えば、相続不動産売却時の譲渡所得税が減らせる!
  • 相続が発生してから3年10ヶ月以内に売却した土地等が対象!
  • 特例の適用には、必要書類を添付した上で確定申告が必要!
  • 代償分割をする場合は、取得費加算の計算が不利になるかも!

では、一緒に見ていきましょう。

相続税の取得費加算とは?

電卓と一戸建ての家(土地付き)

相続税の取得費加算(正式名称:相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)とは、相続によって取得した土地や建物などを相続後一定期間以内に売却した場合に、譲渡所得の計算上、売却した資産の取得費に相続税の一部を加算することができる制度です租税特別措置法39条1項)

相続税という名前が付いているので相続税のお話と思いがちですが、これは所得税のお話ですよ。

不動産を売却した場合、当初購入した取得費と売却価格の差額(譲渡益)に対して所得税&住民税が課税されます。

相続した不動産を売却した場合は、特例によってこの取得費に一定の額を上乗せするということですね。

イメージはこんな感じです。

取得費加算適用前・適用後のイメージ

上記イメージを計算式に起こすと以下のようになります。

パターン譲渡所得の計算式
取得費加算が無い場合の計算式(こちらが通常)譲渡収入額ー(取得費+譲渡費用)
取得費加算がある場合の計算式譲渡収入額ー(取得費(+売却資産に対応する相続税)+譲渡費用)

取得費が増えるということは、それだけ譲渡益が少なくなるので課税される所得税や住民税も少なくて済みます

相続した大事な不動産を売却して相続税を払い、さらに所得税や住民税も取られるなんて酷ですからね・・・。この特例で税金が少なくて済むようになっているのです。

なお、相続の場合、取得費は被相続人の取得費用を引き継ぎますよ(+自分の名義に変えた時の登記費用なども取得費になります)。また、建物の場合、取得費は減価償却後の金額になるので要注意。

被相続人の当初取得価額が不明の場合は、売却価格の5%を取得費として使用してください。

土地や建物といった不動産に限らず株式なども特例の適用対象です。

取得費加算の特例を受けるための要件は3つ!

チェックリスト

相続税の取得費加算の特例は、誰でも受けられる訳ではありません。

特例を受けるためには以下の3つの要件を満たす必要があります。(参考:相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁

  • ①相続や遺贈によって財産を取得した人
  • ②その財産を取得した人に相続税が課税されている
  • ③その財産を、相続発生の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内に売却している

①と②はそのままですね、相続や遺贈(遺言書)によって財産を取得した人が対象で、その人に相続税が課税されていることが必要です。

最後の③の書き方がややこしいですが、ようは「相続発生後3年10ヶ月以内に相続した不動産等を売却する必要がある」と書いていると考えてください。

カレンダーを見ながら不動産の売却時期を探るイメージ

ちなみに、なぜ③の要件の書き方がややこしいかと言うと、相続税の申告期限は人によって異なる場合があるからです。

相続税の申告は原則として相続発生後10ヶ月以内に行う必要がありますが、やむを得ない理由がある場合には2ヶ月の申告期限延長が認められています。

「相続発生の翌日から3年10ヶ月以内に売却」という書き方にすればスッキリして分かりやすいのですが、それだと期限を延長した人としていない人との間で、申告期限から不動産売却までの猶予期間の長さ(3年)が異なってしまいます。

なので、「③その財産を、相続発生の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年以内に売却していること」という分かりにくい文言になっているのです。

ただ、大半の人は「相続発生後3年10ヶ月以内に売却すればOK」と考えれば良いですよ。

相続税の申告期限は?期限が間近に迫ってるときの対処法を徹底解説!

【計算例あり】取得費に加算される相続税額はいくら?

電卓で計算する人

取得費として加算される相続税の額は、以下の計算式で算出します(加算する相続税額が譲渡益の額を超える場合は、その譲渡益相当額となる)。

取得費加算の計算方法

文字ばかりの計算式を見てもなんだかよく分からないですね・・・。

以下で具体的な計算例を見てみましょう。

【前提条件】相続人は長男と次男で、相続財産及び配分は以下の通り。

  • 土地A・・・相続税評価額3,000万円(5年前に2,500万円で父が取得)
  • 土地B・・・相続税評価額2,000万円(5年前に1,500万円で父が取得)
  • 預貯金・・・5,000万円

土地Aと預貯金2,500万円は長男、土地Bと預貯金2,500万円は次男が相続。

このケースでは、長男の相続税は423.5万円、次男の相続税は346.5万円となります。

相続税額の自動計算シミュレーションページ

そして、相続が発生してから2年後、長男は土地Aを4,000万円で売却しました(譲渡にかかった費用は300万円)。

取得費の加算の特例を使わずに普通に譲渡所得の申告した場合、税金は以下の通り(復興特別所得税は無視)。

相続税の取得費加算の特例を使わない場合の計算式

一方で、取得費の加算の特例を使った場合は、以下の通り。

相続税の取得費加算の特例を使う場合の計算式

特例を使うと、税金が46.2万円安くなりましたね。

このように、取得費加算の特例を使えば、相続した不動産等を売却した際の譲渡所得税を節約することができるのです。

【参考】相続税の取得費加算の特例は平成27年1月1日以後に開始した相続から縮小されている

前セクションで取得費加算額の算出方法を見てきました。

取得費加算の計算方法

上記計算式から分かるように、現在の取得費加算の特例は”売却した土地(資産)”のみが計算対象となります。

平成26年12月31日以前に開始した相続の場合は、売却した土地だけでなく相続した全ての土地に対応する相続税額が取得費加算の対象だったのですが、税制改正により平成27年1月1日以降相続からは特例のレベルが縮小されています。

【記載例あり】取得費加算の特例の適用時に必要な書類と書き方

取得費加算の特例を使う場合、所得税の確定申告をしなければなりません

そして、確定申告の際には以下のような書類が必要となります。

  • 相続税の申告書の写し(第1・11・11の2・14・15表)
  • 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
  • 譲渡所得の内訳書(土地建物用や株式用)

ここでは、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」の書き方を紹介しますね。

土地を売却した方の条件は以下の通りとします。

  • 相続税評価額5,000万円の土地を売却
  • 相続税の課税価格は1億円
  • 相続税額は15,234,400円

相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書の記載例

売った土地の情報や、取得費加算の計算結果を記載すれば良いだけなので、それほど難しくはないでしょう。

取得費加算の特例を使うにあたっての注意点

取得費加算の特例は、譲渡所得を計算する際の取得費に相続税の一部を加算することができるのでお得な制度なのですが、適用にあたっては注意点もあります。

そこで、以下では取得費加算の特例の注意点についてみていきましょう。

遺産の未分割は可能な限り避けよう!

遺産分割のイメージ

相続が発生した際に、相続人同士でどの財産を相続するかについて揉めてしまい、なかなか遺産分割協議がまとまらないことがありますよね。

遺産が未分割でも、相続税の申告期限は変わらず相続発生後10ヶ月以内です。
申告期限の時点で未分割の場合は、法定相続割合で遺産を相続したものとして相続税の計算をし、申告・納付をしなければなりません。

相続税については、後に遺産分割協議が成立した時点で修正申告や更正の請求をすればいいのですが、取得費加算の特例は待ってくれません

遺産分割協議が難航して何年も成立しなかった場合、揉めている間に取得費加算の特例の適用期限が過ぎてしまって、使えなくなる可能性もありますよ。

相続した土地が複数ある場合は、特例を適用する順番に注意!

複数の不動産

相続の際に土地を複数取得した場合、どの土地から売るのが効率よく取得費加算の特例を活用できるのでしょうか?

この点、以下の順序で売却するのがもっとも効率よく特例を使えるでしょう。

  1. 含み益のある土地
  2. 所有期間の短い土地
  3. 特別控除や他の軽減特例の適用がある土地は最後

まず大前提として、「①含み益のある土地」であることが最優先ですね。
そもそも売っても譲渡益が発生しない土地であれば、取得費加算の特例を使う必要がないので、急いで売らなくても大丈夫です。

次に、「②所有期間の短い土地」を優先的に売却するようにします。

不動産を売却すると、その不動産の所有期間が5年以下の場合、譲渡益に対して課税される税率は39%()となります。5年超保有していた不動産に対する税率が20%であることからすると、かなり高い税率ですよね。

:短期譲渡所得は所得税30%(復興特別所得税は無視しています)、住民税9%。長期譲渡所得は所得税15%、住民税5%。

そこで、同じ年に2以上の土地を売却するのであれば、所有期間が短い土地に取得費加算の特例を適用した方が有利となります。

最後に、「③他の軽減特例等によって税額が優遇される土地」については、優先度はもっとも低いです。

例えば、マイホームを売却した際の3,000万円の特別控除が受けられる場合。取得費加算の特例を使わなくても、マイホームの特例を使えば税額がゼロになるケースが多いです。

他にも、軽減税率の適用や買換えの特例が利用できるような土地については、取得費加算の特例の優先度は低くなります。

相続税の取得費加算の特例は「空き家の譲渡所得3,000万円控除」とは重複することはできず、選択適用となります。(参考:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

代償分割をする場合は、取得費加算の計算時に不利になる!?

どの不動産にするか悩んでいる人

相続財産の大部分が不動産だった時などのように、公平に遺産分割が出来なさそうな場合に、代償分割を行うことがあります。

不動産の相続で使える代償分割!相続税の計算方法と利用時の注意点

代償分割をすれば、例えば不動産を取得した相続人が他の相続人に対して現金等を支払うことで、平等な遺産分割とすることが可能です。

ただし、この代償分割をする場合は、取得費加算の計算時に不利になる可能性があるのです。

なぜなら、代償金を支払って取得した不動産を譲渡した場合、取得費加算の額を計算する際に、調整計算が必要になるからです。

最初に、通常の取得費加算額の計算方法をおさらいしましょう。

取得費加算の計算方法

そして、こちらが支払代償金がある場合の取得費加算額の計算式です。

代償分割がある時の取得費加算の計算方法

計算式は難しいですが、マイナス表記が入っているので、なんとなく「取得費加算額」が少なくなることは分かりますよね。

簡単な計算例で考えてみましょう(計算結果を分かりやすくするため、代償分割をしなくても平等に分けられるケースで計算します)。

例えば、相続財産が土地2億円、預貯金3億円だった場合(相続人は長男と長女の2人)で、長男が全て相続する代わりに長女に現金2億5千万円を代償金として支払うケース。

この場合は、取得費加算の計算式は以下の通り。

代償交付金がある場合の取得費加算の計算例

計算結果は3,042万円となり、この額が取得費に加算される相続税の額となります。

なお、今回のケースではわざわざ代償分割をしなくても、土地2億円と預貯金5千万円を長男、預貯金2億5千万円を長女が相続すれば問題ないのですが、その場合は取得費加算の額は以下のようになります。

取得費加算の計算例2

代償分割をしない方が、取得費加算額は3,042万円多いですね。

このように、遺産分割を代償分割によって行う場合、取得した不動産を売却した相続人は取得費加算の額が少なくなってしまうのです。

取得費加算の特例を使おうと考えている場合は、分割方法についてもよく考える必要がありますね。

特例を使おうと考えている人は債務を引き継がない方が良い

家のローン

取得費加算の計算式に書いてあるように、分母で使う課税財産の額は、債務控除前のものです。

相続税の計算上は、債務を負担すればその分課税財産から控除していくことが出来るので、相続税は減ります。

しかし、取得費の加算額を計算する上では債務控除前の財産額を使うので、債務を負担すればするほど取得費の加算額が減ってしまいます

従って、取得費の加算の特例を使おうと考えている場合は、可能な限り債務を負担しない方が良いと言えるでしょう。

母と長男が相続人のようなケースだと、母は配偶者控除により相続税額がゼロになるため、長男の納税額を少なくすべく債務を負担しようと考えるかもしれません。しかし、それは取得費加算の観点からすると、逆効果ということですね。

生前か相続発生後、不動産を売るならどっちの方が良いの?

不動産を売るか悩む初老の男性

相続税の取得費加算について見てきましたが、そもそも要らない不動産を持っているような家庭では、生前に不動産を売っておいた方がいいのか、相続発生後に売った方がいいのか、どちらなのでしょうか?

この点については、一概にどっちが得かを答えるのは難しいです。

しかし、それぞれについてメリット・デメリットがあるので、それを見て判断すると良いでしょう。

生前に売却するメリット・デメリット

【メリット】

生前に不動産を売った場合、売却代金は現金となるので相続発生後の遺産分割で揉めるリスクを減らすことができます。

【デメリット】

一方で、土地と現金を比較すると、土地の相続税評価額の方が安くなることが多いので、相続税という面では損をする可能性が高くなります。

相続発生後に売却するメリット・デメリット

【メリット】

相続開始時点で不動産のままなので、現金でおいておくより相続税が安くなるというメリットがありますね。加えて、取得費加算の特例も使えるので、譲渡所得税も節約することができます。

【デメリット】

一方で、不動産のまま相続をすると、誰が相続するのかを巡って揉める可能性が出てくるでしょう。

不動産の名義を共有にしてしまうと、売却時に手続きが面倒ですし次の相続が発生した際に、名義人がさらに増える可能性がありますからね。

できれば単独名義にしたいところですが、それに見合う他の相続財産がない場合などは、揉める可能性がどうしても高くなってしまいます。

メリット・デメリットのまとめ

このように、どちらの方法も一長一短ありますので、どうするのが一番良いのか生前のうちに考えておいた方が良いですね。

ケースメリットデメリット
生前に不動産を売る・遺産分割で揉めにくい・相続税が高くなる
相続発生後に不動産を売る・相続税が安くなる
・取得費加算の特例が使える
・遺産分割で揉める可能性がある

【参考】3年以内に土地を売却できなさそうな場合の対策

「相続した不動産は不要なので、すぐに売却して取得費加算の特例を使おう!」と考えていても、不動産はすぐに売れるとは限りません。

場合によっては、相続税の申告期限から数年経っても売れないこともあるでしょう。しかし、取得費加算の特例の期限は延長することができません。従って、期限までに売ることができなければ特例は諦めざるをえないです。

そんな時に使えるのが、同族関係者や同族会社に一旦売却してしまう方法です。

取得費加算の特例は、同族間での売買でも使うことができます。万が一、どうしても買い主が見つからないというのであれば、身内に売って特例を使うのもいいかもしれないですね。

同族関係者に対する売却でも特例は使えますが、買った人は登録免許税や不動産取得税などが必要になる点を忘れずに!

まとめ

相続税の取得費加算の特例について、どういうものかや活用方法などについて見てきました。

土地等を相続したものの相続税が納税できない、相続したけど要らない土地だった、というようなケースで土地等を売却した際の譲渡所得税を節約することができます。

相続税申告の期限から3年以内という期間制限はありますが、要件を満たす方は是非利用したいですね。

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