【締め付け厳しく…】一般社団法人を使った相続税対策が改正でNGになった!?
「一般社団法人を使えば相続税の節税が出来るってどういう仕組み?」
「改正で一般社団法人を使った節税スキームが使えなくなったって本当?」
法人と聞くと株式会社を思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、実際には医療法人やNPO法人、宗教法人など様々な法人が存在しています。
そして、中でも一般社団法人という法人が相続税対策に有効だということで、一般社団法人を設立する富裕層が近年増えていました。
しかし、平成30年度の税制改正によって一般社団法人を使った相続税対策に「待った!」がかかってしまい、ちょっとした話題になっているのです。
今回の記事では、一般社団法人を使った相続税対策のスキームがどんなものなのか、税制改正によってどうなったのかなどについて、相続税専門税理士の私が分かりやすく解説していこうと思います。
要点は以下の通りです。
- 一般社団法人に財産を移転して相続税を回避するのが厳しくなった!
- 一般社団法人の役員構成によっては、相続税が課税される!
- 贈与税が課税される要件も明確化!
では、詳しい内容を一緒に見ていきましょう。
Contents
そもそも一般社団法人とは?
一般社団法人を使った相続税対策について見る前に、「そもそも一般社団法人が何なのか?」を簡単に見ておきましょう。
一般社団法人とは、平成20年に施行された「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立された、非営利法人のことです。
特段、諸官庁による審査や報告義務などもなく簡単に設立が出来るため人気がありますよ(設立には最低でも2名の社員が必要)。
最近の新設法人の件数を見てみると、その人気の高さが見て取れますね。
(画像参照元:2016年「一般社団法人」の新設法人調査 : 東京商工リサーチ)
一般社団法人は「非営利法人」と書きましたが、この非営利とは「事業活動によって獲得した利益を分配しないこと」を意味していて、営利目的で株主に対する配当還元を行う株式会社とはその性質が大きく異なります。
「事業活動によって獲得した利益を分配しないこと」とはどういうことかと言うと、一般社団法人は株式会社のように営利目的の団体ではないため、出資に対する持ち分がない(=持ち主がいない)です。
従って、仮に定款で定めたとしても、社員(役員のようなもの)や設立者に対して剰余金や残余財産の分配(配当)をすることは出来ません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第11条2項、第35条3項、第153条3項)。

なお、「非営利性が徹底された法人」か「共益的活動を目的とする法人」という条件を満たせば、法人税法の定める非営利型法人(法人税法第2条9号の2)となります。
その結果、税務上定められている34種類の収益事業(法人税法施行令第5条各項)以外の事業活動によって所得が生じたとしても、法人税等が課税されることはありません。

最後に、一般社団法人と株式会社の主な違いを簡単にまとめておきますね。
項目 | 株式会社 | 一般社団法人 |
---|---|---|
設立に必要な人数 | 1人 | 2人 |
出資金 | 1円以上 | 不要 |
設立時に必要な費用 | 25万円前後 | 12万円前後 |
剰余金の分配 | 分配可能 | 分配不可能 |
法人税等の課税 | 全ての所得に課税 | ●非営利型法人:収益事業以外は課税されない ●非営利型法人以外:全ての所得に課税 |
一般社団法人を設立すれば相続税対策ができる!?そのスキームを解説!
一般社団法人の設立が、なぜ相続税の節税につながるのでしょうか?
ここでは、一般社団法人を使った節税スキームについて解説しますね。
まず、自分の親が不動産賃貸業をしていたとしましょう(相続人は長男のみ)。
この親が亡くなると、長男が不動産を相続することになります。
不動産は相続財産なので、相続人は相続税評価額に基づいて相続税の計算・納付をしなければなりません。
ここで、不動産を一般社団法人に移転させた場合はどうなるでしょうか?
上で書いたように一般社団法人には出資持分がありません。出資持分がないということは、相続人は相続することが出来ないということですね。
そして、「一般社団法人には持分が無い」という事が相続税の節税に繋がります。
以下で簡単な例を見てみましょう。
父親と長男の家族構成で、父親と長男の2人で一般社団法人を設立し父親が代表者になります。その後、父親が個人名義で持っていた賃貸用不動産を一般社団法人に譲渡します。そして、代表者を父親から長男に変更するのです。
その結果、賃貸用不動産から得られる賃貸料収入は一般社団法人の収入となるのですが、これは報酬や給料として2人に払い出すことが出来ますよね。
また、父親が亡くなった際、その不動産は既に一般社団法人の所有物なので、相続税の課税対象ではありません。それに、一般社団法人には出資持ち分がないので、株式のように相続税が課税されることもありません。
その結果、賃貸料収入は今後も長男も受取ることが出来るにかかわらず、相続税は誰も払わなくて済むという訳ですね。

なお、これはその後に訪れる2次相続時でも有効です。
長男に配偶者や子供がいるのであれば、配偶者や子を一般社団法人の理事等にすることによって、自分が亡くなった後も相続税を負担することなく賃貸用不動産を運用していくことが可能になりますよ。

一般社団法人は、業務内容に公益性がなくても設立が可能なので、合法的に個人の財産を法人名義に切り替えて、相続税の課税対象から切り離すことが出来るという理屈ですね。
一般社団法人には、公益社団法人と違って、理事(役員)の資格に制限がありません。
家族や親族で独占することも可能なので、うまく活用すれば半永久的に相続税の負担をなくすことが可能となります。
ただし、個人から法人に無償で贈与をすると、時価で譲渡したものとして贈与者には譲渡所得税が課税され、受贈者である一般社団法人には法人税が課税(受贈益課税)されるので、要注意です。
また、一般社団法人に財産を移転したことにより相続税や贈与税が不当に減少したと税務署から判断されると、一般社団法人は個人とみなされて相続税や贈与税が課税されることになりますよ。

【注意】平成30年度税制改正で一般社団法人を使った相続税対策はNGに近くなった!
一般社団法人を使った相続税の節税スキームについて見てきましたが、残念ながら(?)平成30年度の税制改正によって見直しが行われました。
一般社団法人を使って相続税を安くしたからといって明確な脱税行為とはならないのですが、国側としてはあまり好ましくないですよね。
本来であれば相続人から支払われるであろう相続税が回避されるわけですから。(こういうのを国は「租税回避行為」と呼んでいます)。
万が一、このスキームを資産家がみんなしてしまうと、半永久的に相続税の課税がされなくなってしまい、国としては非常に困りますよね。
そこで、相続税の回避をさせないように税制を改正することになったのです。
一般社団法人に関する平成30年度税制改正のポイントは以下の2つ!
- ①親族が支配している一般社団法人は個人とみなして相続税を課税!
- ②一般社団法人に贈与税が課税される要件を明確化!
以下でそれぞれについて見ていきましょう。
①親族が支配している一般社団法人は個人とみなして相続税を課税!
上で書いたように、一般社団法人に個人の財産を移すと所有者のものでは無くなるので、その財産は相続税の課税対象外となります。
また、一般社団法人には持ち分がないので、相続人は株式会社のように株を相続して課税されるといったこともありません。
しかし、このままだと国は相続税を徴収できなくなってしまうので、親族が支配している一般社団法人は個人と同じようにみなして相続税を課税するように税制を改正したのです(財務省:一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し)。
今回の相続税法改正によって新たに追加されたのは、相続税法第66条の2。
条文だけ見ても難しいのでポイントを要約すると、「特定一般社団法人等に該当する場合、その同族役員(理事)が亡くなった際に、遺贈によって財産を取得したものとして相続税が課税される」というものです。
もっと分かりやすくすると「家族が支配している一般社団法人には相続税が課税される!」ということですね。
なお、ここでいう特定一般社団法人等とは、以下のいずれかの要件を満たす一般社団法人等のことを指します。
- 相続開始直前で、同族の役員が役員全体の過半数を占めている
- 相続開始前の5年以内に、同族の役員が役員全体の過半数を占めていた期間が合計3年以上ある
これを図解すると以下のようになります。

また、同族役員とは主に以下の人たちのことを指しますよ(相続税法施行令第34条3項)
- 被相続人の配偶者(内縁の配偶者も含む)
- 被相続人の三親等内の親族(叔父・叔母、甥姪等まで)
- 被相続人が役員になっている法人(もしくは近親者に50%超支配されている法人)の役員や使用人
これらの要件を満たした場合、一般社団法人には相続税が課税されます。そして、相続税の計算で使う金額は以下の通り!
参考:被相続人が一般社団法人に財産を移転した際に、既に課税された贈与税がある場合はその額を控除する。
例えば、相続発生時点で一般社団法人の純資産額が5億円あり、同族役員の数が5人だった場合、一般社団法人は1億円(=5億円÷5人)を遺贈により取得したものとみなして相続税の申告・納付をしなければなりません。
②一般社団法人に贈与税が課税される要件を明確化!
個人が一般社団法人等に財産を贈与し、贈与者の親族等の贈与税が不当に減少する結果となる場合、上で紹介したように一般社団法人に対して贈与税が課税されます(相続税法66条4項)。
具体的には、以下の4つの要件のいずれか1つでも満たさない場合には贈与税等が課税され、4つの要件をすべて満たす場合には贈与税等が不当に減少する事にはならないと判断され非課税となります(参考:相続税法施行令33条3項)。
- ①定款や規則で、役員等のうち親族が占める割合を1/3以下にする定めがない
- ②役員等やその親族に対して特別な利益を与える
- ③一般社団法人が解散した際に、残余財産が国や地方公共団体、公益財産法人、公益社団法人等に帰属する定めがない
- ④法令違反、帳簿書類の隠蔽・仮装、その他公益に反する事実がある
改正前は、上記4つの要件に一つでも該当したらアウトなのか全て該当したらアウトなのかが不明確で、課税されたりされなかったりと言ったケースもあり問題視されていました。
そこで、今回の改正で
・全ての要件を満たせば課税しない!
・1つでも該当すれば課税する!
という取扱いが明確化されることになりました。
(参考:第2 持分の定めのない法人に対する贈与税の取扱い|国税庁)
規制は今後さらに厳しくなるかも!?
平成30年度税制改正によって、今まで使うことのできた一般社団法人を活用した相続税の節税スキームに「待った」がかかりました。
しかし、この税制改正は租税回避を防止するという意味では完全なものとは言い難いです。
というのも、上の計算式を見たら分かるように、同族理事の数が多ければ多いほど一般社団法人に課税される相続財産の額は小さくなっていきます。つまり、同族理事の人数を増やせば簡単に相続税額を減らすことが出来るということですね。
例えば、一般社団法人の純資産額が5億円の場合、同族役員の数が5人だったら1億円が相続税の課税対象ですが、10人に増やせば5,000万円(=5億円÷10人)に減らすことが出来てしまいます。
また、現職役員か相続発生前5年以内に役員だった人が亡くなった場合に適用があるものなので、早めに理事を退任して5年待つか、初めから理事にするのは若い人だけという状態にしておけば、そもそもこの規制に引っかからなくなります。
つまり、現状はせっかく節税対策のスキームに歯止めをかけようとしたのに、簡単に歯止めをクリアする対策が出来てしまう状態なのです。
従って、今後さらなる規制強化がされることも予想されますね。
最後に
従来、一般社団法人を設立して財産を法人に移転することによって相続税の節税対策をすることができたのですが、平成30年度の税制改正によってそのスキームが一部封じ込められました。
この規制自体は、納税者にとって不利な内容のものですが、不当な課税逃れを防ぐために必要な処置といえるでしょう。しかし、この処置は完全なものとは言えないので、今後さらに厳しい規制がかかる可能性も否定できません。
税金を取り巻く環境は著しく変化していきます。
常に新しい情報を入手し、間違った節税策で損をしてしまわないように注意しましょうね。
また、相続税の節税対策を考えている場合は自分だけで考えて行うよりも、最新の税制動向や相続税に詳しい税理士に相談しながら行うことをオススメします。